「あの人は才能があるから成功したんだ」 「自分には特別なスキルがないから無理だ」
ビジネスの世界で大きな成果を上げる人を見て、そう感じたことはありませんか?しかし、近年の研究で、成功を予測する最も重要な要素は、生まれ持った才能やIQではないことが明らかになりました。
その鍵こそが**「GRIT(グリット)=やり抜く力」**です。
本記事では、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授が提唱し、世界中のリーダーたちが注目する「GRIT」について、その正体から具体的な鍛え方までを徹底解説します。
GRIT(やり抜く力)とは何か?
GRITとは、**「長期的な目標に向けた、情熱と粘り強さ」**を意味する言葉です。
- 情熱(Passion): 自分のやっていることに対する強い興味や関心。単なる「好き」というだけでなく、それが自分にとって重要であるという深い意味づけ。
- 粘り強さ(Perseverance): 困難や挫折、スランプに直面しても、諦めずに努力を続ける力。
つまり、GRITが高い人とは、「何年もかけて重要な目標にひたむきに取り組み、途中で飽きたり、がっかりしたりしても、脇道にそれずに努力し続ける人」のことです。彼らは短距離走者ではなく、マラソンランナーなのです。この長期的な目標達成の旅を走り抜くためには、日々の効果的なタイムマネジメント術が不可欠となります。
アンジェラ・ダックワース教授の研究では、陸軍士官学校の過酷な訓練を乗り越える士官候補生や、熾烈なスペリングコンテストで優勝する子どもたちに共通していたのは、才能や知能指数ではなく、このGRITのスコアの高さでした。
GRITを構成する4つの要素「興味・練習・目的・希望」
では、「やり抜く力」は具体的にどのようにして育まれるのでしょうか。ダックワース教授は、GRITを内側から成長させる4つの心理的資産を挙げています。
- 興味(Interest): すべての始まりは、自分のやっていることを心から楽しむことです。情熱は、仕事と喜びが一致した時に燃え上がります。
- 練習(Practice): 今日の自分より、明日は少しでも上手くなろうとする姿勢。弱点を克服するために、意識的で地道な練習(デル・プラクティス)を継続する力です。
- 目的(Purpose): 自分の仕事が、自分自身だけでなく、他者や社会の役に立っているという信念。この目的意識をチームに浸透させ、全員の心を一つにするためには、リーダーがビジョンを物語として語るストーリーテリングが極めて有効です。
- 希望(Hope): 困難な状況でも心を落ち着かせ、冷静に次の一手を考えるためには、日々のマインドフル瞑想が精神的な土台を築いてくれます。
【簡単診断】あなたの「やり抜く力」はどれくらい?
まずは、あなたの現在のGRIT度をセルフチェックしてみましょう。以下の質問に対し、直感的に「はい」「いいえ」で答えてみてください。
- 一度始めたことは、最後までやり遂げないと気が済まない。
- 新しいアイデアやプロジェクトに興味が湧いても、すぐに飽きてしまうことがある。
- 私にとって、挫折は成長の機会だ。
- 目標達成のためなら、何年も努力し続けることができる。
- 興味の対象が、数ヶ月ごとに変わることが多い。
- 私は努力家で、勤勉な人間だと思う。
- 達成したい目標があるが、なかなか最初の一歩が踏み出せない。
- 困難な壁にぶつかっても、粘り強く解決策を探す。
診断結果: 「はい」と答えた数が多ければ多いほど、あなたのGRITは高い傾向にあります。特に、奇数番号(1, 3, 5, 7)は「情熱」、**偶数番号(2, 4, 6, 8)は「粘り強さ」**に関連しています。(※これは簡易的な診断です)
もし点数が低くても、落ち込む必要はありません。GRITは才能ではなく、誰でも鍛えることのできるスキルです。
【実践編】ビジネスパーソンがGRITを鍛える5つの方法
ここからは、GRITを日々の仕事の中で鍛え、高めていくための具体的なアクションプランをご紹介します。
1. 「好きなこと」と「得意なこと」の交点を見つける
まずはGRITの源泉である「興味」を深掘りします。
- 過去の経験を棚卸しする: これまでの仕事で、時間を忘れて没頭できたことは何でしたか?どんな時に「楽しい」「充実している」と感じましたか?
- 「Why(なぜ)」を5回繰り返す: 「この仕事が好きだ」と感じるなら、「なぜ好きなのか?」を5回繰り返してみましょう。その奥にある、あなたの根源的な動機や価値観が見えてきます。
2. “デル・プラクティス”を意識する
ただ時間をかけて練習するだけでは、成長は頭打ちになります。GRITが高い人は、**「意識的な練習(Deliberate Practice)」**を実践しています。
- 明確な目標設定: 「プレゼンが上手くなる」ではなく、「プレゼンの冒頭30秒で、聞き手の心を掴むための具体的な練習をする」といった、具体的で測定可能な目標を立てます。
- フィードバックを求める: 上司や同僚に積極的にフィードバックを求め、自分の弱点を客観的に特定します。
- 弱点に集中して反復練習: 特定した弱点を克服するために、意識を集中させて何度も練習します。
3. 大きな「目的」を持つ
自分の仕事が、会社の利益や自分の給料のためだけにあると思うと、困難な時に心は折れやすくなります。
- 顧客や社会への貢献を意識する: あなたの仕事は、最終的に誰を幸せにしていますか?その貢献を具体的にイメージすることで、仕事の意味が深まります。
- 後輩やチームへの貢献: 自分のスキルや経験を、後輩の育成やチームの成功のために役立てることも、立派な目的意識です。
4. 「グロース・マインドセット」を育てる
GRITの土台となる「希望」は、「グロース・マインドセット」を持つことで育まれます。これは、「自分の能力は努力次第で成長させられる」という考え方です。
- 「まだ〜ないだけ」と考える: 「自分にはできない」ではなく、「自分には”まだ”できないだけ」と捉え方を変えましょう。
- 失敗を学習の機会と捉える: 失敗は、能力の欠如の証明ではありません。成功に近づくための貴重なデータです。「この失敗から何を学べるか?」と自問する習慣をつけましょう。
5. 小さな成功体験を積み重ねる
最初から高すぎる目標を立てると、挫折しやすくなります。
- 目標を細分化する: 大きな目標を、達成可能な小さなステップに分解します。
- ベイビーステップを祝う: 小さなステップをクリアするたびに、自分で自分を褒めましょう。この小さな成功体験の積み重ねが、「自分ならできる」という自己効力感を育み、粘り強さに繋がります。
まとめ:GRITは、あなたを裏切らない最強の武器
変化が激しく、予測困難な現代のビジネス環境において、過去の成功体験や知識だけでは通用しない場面が増えています。そんな時代だからこそ、目標に向かって情熱を燃やし続け、困難に屈せず粘り強く努力を続ける「GRIT」が、何よりも強力な武器となるのです。
GRITは、一部の特別な人だけが持つ才能ではありません。日々の意識と実践によって、誰もが後天的に鍛えることができるスキルです。
この記事で紹介した方法を一つでも実践し、あなたの内なる「やり抜く力」を育ててみてください。その地道な一歩が、あなたのキャリアを、そして人生を、より豊かで実りあるものに変えていくはずです。