自分の「苦手」から、もう目を背けない
エニアグラムで自分のタイプを知ることは、しばしば、自分の「見たくない部分」と直面する、痛みを伴う体験でもあります。
「なぜ、自分はいつも同じパターンで人間関係を壊してしまうのだろう」 「どうして、大切な場面で一歩が踏み出せないのだろう」 「この、自分でも嫌になる性格を、どうにかしたい」
あなたも、そんな風に自分の「苦手」な部分に、ため息をついたことがあるかもしれません。
しかし、もし、その「苦手」が、克服できない欠点ではなく、あなたをさらなる高みへと導くための「成長の伸びしろ」だとしたら?
この記事は、エニアグラムの叡智を用い、あなたが無意識に繰り返してしまう「苦手」の根本原因を解き明かし、それを乗り越え、より自由でバランスの取れた自分へと成長するための、具体的な「3つの処方箋」を提示する、自己変革のためのガイドブックです。
第1章:なぜ「苦手」は生まれるのか?- 3つのセンターの不均衡
そもそも、あなたの「苦手」はどこから来るのでしょうか。その答えは、エニアグラムにおける3つのエネルギーセンター(本能・感情・思考)の「不均衡」にあります。
- 腹・本能センター(タイプ8, 9, 1): 「行動」と「コントロール」を司る。
- 心・感情センター(タイプ2, 3, 4): 「人との繋がり」と「自己イメージ」を司る。
- 頭・思考センター(タイプ5, 6, 7): 「安全」と「分析・計画」を司る。
私たちは皆、この3つのセンターを持っていますが、自分のタイプが属するセンターのエネルギーを「過剰に使い」、他の2つのセンターを「ほとんど使っていない」という、極端な不均衡状態にあります。
頭脳派のタイプ5が、感情の問題を思考で解決しようとして失敗する。行動派のタイプ8が、緻密な計画が必要な問題を力技で解決しようとして反感を買う。これが、あなたの「苦手」が生まれる、根本的なメカニズムなのです。
つまり、苦手克服の鍵は、弱点を根絶しようとすることではなく、あなたが普段使っていない「残り2つのセンター」のスイッチを、意識的にONにすることにあります。
第2章:【タイプ別】あなたの「苦手」と、その克服スイッチ
それでは、9つのタイプ別に、その典型的な「苦手」と、それを克服するための「3つの処方箋(思考・感情・行動のスイッチ)」を解説します。
- タイプ1(腹)の苦手:完璧主義、柔軟性の欠如
- 処方箋: ①思考スイッチ:「本当に『正しいやり方』は一つだけだろうか?」と、別の可能性を考える。 ②感情スイッチ:「完璧でなくても、楽しんでもいい」と、自分に許可を出す。 ③行動スイッチ:計画の8割で「完了」とし、あえて不完全なまま次に進んでみる。
- タイプ2(心)の苦手:自己犠牲、NOと言えない
- 処方箋: ①思考スイッチ:「これは相手のため? それとも『良い人』と思われたいだけ?」と、自分の動機を分析する。 ②感情スイッチ:「自分の気持ちを優先しても、見捨てられたりはしない」と、自分の心を信じる。 ③行動スイッチ:週に一度、自分のためだけの時間を強制的に確保する。
- タイプ3(心)の苦手:自分を見失う、本当の感情がわからない
- 処方箋: ①思考スイッチ:「成果や他人の評価がなかったら、自分には何が残る?」と、本質を問う。 ②感情スイッチ:一人の時間に「今、何を感じている?」と、自分の心に問いかける。 ③行動スイッチ:誰にも見せるためではない、ただ自分がやりたいだけの無駄なことをしてみる。
- タイプ4(心)の苦手:感情の波に溺れる、行動できない
- 処方箋: ①思考スイッチ:「この感情は『事実』か? それとも自分の『解釈』か?」と、客観視する。 ②感情スイッチ:感情をただ感じるだけでなく、詩や絵など「作品」として表現する。 ③行動スイッチ:気分が落ち込んだら、まず部屋の掃除や散歩など、具体的な行動を起こす。
- タイプ5(頭)の苦手:考えすぎて動けない、孤立
- 処方箋: ①思考スイッチ:「100%理解する前に、まずやってみたらどうなる?」と、行動をシミュレーションする。 ②感情スイッチ:「人と関わるのは、エネルギーを奪われるだけでなく、得るものもあるかもしれない」と、メリットに目を向ける。 ③行動スイッチ:自分の知識を、誰か一人のために、出し惜しみせず教えてみる。
- タイプ6(頭)の苦手:不安と心配で決断できない
- 処方箋: ①思考スイッチ:「その『最悪のシナリオ』が起きる確率は、客観的に何%か?」と、確率論で考える。 ②感情スイッチ:「不安を感じてもいい。不安と共に、一歩を踏み出す」と、覚悟を決める。 ③行動スイッチ:「今日のランチ」など、どんな小さなことでもいいから、他人に相談せず「自分で決める」練習をする。
- タイプ7(頭)の苦手:飽き性、一つのことが続かない
- 処方箋: ①思考スイッチ:「この『つまらなさ』の先に、どんな『深い面白さ』が待っているだろう?」と、深掘りを想像する。 ②感情スイッチ:「退屈」という感情から逃げず、「ああ、今、退屈なんだな」と、ただ感じてみる。 ③行動スイッチ:一度始めたことは、どんなに小さくてもいいから「最後までやり遂げる」という体験を積む。
- タイプ8(腹)の苦手:攻撃的、人の意見を聞かない
- 処方箋: ①思考スイッチ:「相手を打ち負かす以外に、目的を達成する方法はないか?」と、別の選択肢を探す。 ②感情スイッチ:「自分の弱さを見せても、この人は受け止めてくれるかもしれない」と、他者を信頼してみる。 ③行動スイッチ:相手が話し終わるまで、絶対に口を挟まないと決め、ただ黙って聞く訓練をする。
- タイプ9(腹)の苦手:自己主張できない、先延ばし
- 処方箋: ①思考スイッチ:「もし自分が意見を言わなかったら、チームはどんな損失を被るだろう?」と、自分の影響力を考える。 ②感情スイッチ:「私が怒るのは、当然の権利だ」と、自分の怒りの感情を肯定する。 ③行動スイッチ:「どちらでもいい」と言いそうになったら、ぐっとこらえ、「あえて言うなら、こちらがいい」と表明してみる。
第3章:成長の矢印(統合)を意識的に使う
実は、前章で解説した「苦手克服のスイッチ」は、エニアグラムにおける「統合の方向(成長の矢印)」の性質を、意識的に取り入れることに他なりません。
- タイプ1は、タイプ7の「楽しむ」力を使うことで、完璧主義を克服します。
- タイプ2は、タイプ4の「自分と向き合う」力を使うことで、自己犠牲を克服します。
- タイプ3は、タイプ6の「誠実さ」を使うことで、虚栄心を克服します。
- タイプ4は、タイプ1の「客観性・規律」を使うことで、感情の波を克服します。
- タイプ5は、タイプ8の「行動力」を使うことで、引きこもりを克服します。
- タイプ6は、タイプ9の「信頼・平穏」を使うことで、不安を克服します。
- タイプ7は、タイプ5の「集中・探究」を使うことで、飽き性を克服します。
- タイプ8は、タイプ2の「思いやり」を使うことで、攻撃性を克服します。
- タイプ9は、タイプ3の「自己主張・行動」を使うことで、怠惰を克服します。
この「統合の方向」を意識することが、あなたの苦手克服を加速させる、長期的なマスタープランとなります。
結論:「苦手」は、あなたの「伸びしろ」である
エニアグラムが示す苦手克服の道は、自分ではない誰かになろうとすることではありません。それは、自分という人間が持つ、素晴らしい可能性のすべてを統合し、よりバランスの取れた、より器の大きな「本来の自分」へと還っていく旅路です。
あなたの「苦手」は、あなたという人間の価値を下げる「欠点」ではありません。 それは、あなたがこれから、最も大きく、豊かに成長できる領域を、優しく指し示してくれる「希望のサイン」なのです。今日から、あなたの「苦手」を、好奇心と勇気をもって、見つめてみてください。そこには、あなたもまだ知らない、新しい自分の扉が隠されています。