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その場で決めるか、一生決まらないか。エニアグラムで「即決できる顧客」を見抜く、禁断の営業術

「いかがなさいますか…?」その一言が、天国と地獄を分ける

「ぜひ、前向きに検討させていただきます」

営業担当者にとって、これほど期待と不安が入り混じる言葉はないでしょう。手応えはあったはずなのに、なぜその場で「YES」がもらえないのか。持ち帰られてしまった案件のほとんどは、二度と陽の目を見ることはない。それが営業の厳しい現実です。

特に、スピードが求められる現代のビジネスにおいて、「即決」を引き出す能力は、トップセールスとその他を分ける決定的なスキルです。

しかし、多くの人が勘違いしています。「即決営業」とは、強力なトークで相手を無理やりねじ伏せる技術のことではありません。それは、「今、決断できる準備ができている顧客」を瞬時に見抜き、その人の心のスイッチを押してあげる、高度な心理術なのです。

この記事は、エニアグラムを用い、顧客のタイプを瞬時に見極め、「押すべき相手」と「引くべき相手」を判断するための、いわば「禁断の営業マニュアル」です。

第1章:「即決スペクトラム」- 相手はスプリンターか、ジョガーか、シンカーか?

まず、全ての顧客を、その場で決断できる可能性に応じて、3つのグループに分類します。あなたの目の前の顧客が、どのグループに属するかを見極めることが、即決営業の成否を分けます。

  • 【スプリンター群】即決を狙うべき、決断の早い人々(タイプ3, 7, 8)
    • 特徴: 直感的で、チャンスやメリットに敏感。決断が早く、物事の停滞を嫌う。彼らにとって「持ち帰り検討」は、事実上の「NO」である可能性が高い。
    • 見抜き方: 話のテンポが速い。「で、結論は?」「面白いね!」といった反応が早い。自分の意見をハッキリ言う。
  • 【ジョガー群】条件次第で、即決の可能性がある人々(タイプ1, 2)
    • 特徴: 感情や、自分の中の「正しさ」と一致すれば、決断は早まる。しかし、そこに少しでも疑問や不安があれば、途端に慎重になる。
    • 見抜き方: 「なるほど、それは正しいですね」「〇〇さんが助かるなら…」といった、自分の価値観に照らし合わせる言葉が出る。
  • 【シンカー群】即決を狙ってはいけない、熟考する人々(タイプ4, 5, 6, 9)
    • 特徴: 決断には、十分な情報、時間、そして心の安全が不可欠。彼らに「今、決めてください」と迫ることは、地雷を踏むようなもの。信頼関係そのものを破壊しかねない。
    • 見抜き方: 「うーん…」「一度、持ち帰らせてください」「他と比べてみたい」といった、保留の言葉が多い。

第2章:スプリンター戦略 – タイプ3,7,8をその場で決断させる「最後の一言」

あなたの目の前の顧客が「スプリンター」だと判断したら、迷わず即決を狙いに行きましょう。彼らは、むしろ決断を促されることを望んでいます。

  • vs. タイプ3(達成者)
    • 決断トリガー: 競争優位性、成功のイメージ
    • キラーフレーズ: 「このチャンスを今ここで掴むことで、間違いなく、ライバルより一歩先んじることができます。いかがなさいますか?」
  • vs. タイプ7(熱中する人)
    • 決断トリガー: 限定感、新しい体験への期待
    • キラーフレーズ: 「実はこの特別なご提案、本日ご決断いただけた方だけの限定オファーなんです。この面白いチャンス、逃すのはもったいないですよ!」
  • vs. タイプ8(挑戦する人)
    • 決断トリガー: 自己決定権、主導権
    • キラーフレーズ: 「最終的なご決断は、〇〇様にお任せします。ここで決めてビジネスを加速させるか、このまま見送るか。どうされますか?」

第3章:ジョガーへの賭け、シンカーの罠 – 「押してはいけない」時の正しい一手

営業で最も重要なのは、「引くべき時」を知ることです。

  • ジョガー群(タイプ1, 2)へのアプローチ 彼らへの即決アプローチは、「賭け」の要素があります。タイプ1には「これが最も正しく、御社のためになる選択です」と、タイプ2には「このご決断が、チームの皆さんを必ず助けることになります」と、彼らの価値観に訴えかけることは有効です。しかし、そこで少しでも表情が曇れば、即座に引く勇気が必要です。「承知いたしました。では、ご納得いただけるまで、もう一度〇〇の資料をご用意しますね」と、相手のペースに合わせる姿勢が、次のチャンスを繋ぎます。
  • シンカー群(タイプ4, 5, 6, 9)への絶対禁句「今日、決めてください」は、彼らにとって死刑宣告に等しい言葉です。 この一言で、あなたの提案は永久に検討のテーブルから外されます。彼らに対する営業のゴールは、「即決」ではなく、**「次の具体的なアクションを、その場で約束してもらうこと」**です。
    • シンカー群への正しい一手: 「承知いたしました。もちろん、今日決めていただく必要はございません。ただ、〇〇様にとって最善のご判断をいただくために、来週の火曜日に、本日いただいたご質問への回答資料をお持ちしてもよろしいでしょうか?」

結論:営業における「速さ」の本当の意味

即決営業」とは、全てを速く終わらせることではありません。それは、相手の決断のペースを瞬時に見抜き、自分のペースをそれに完璧にシンクロさせる、高度なアジャイル(俊敏な)営業術なのです。

スプリンターには、共にトップスピードで駆け抜ける。 ジョガーには、並走しながら、時に背中をそっと押してあげる。 シンカーには、彼らが自分のペースで走りきれるよう、先回りしてコースを整備し、給水ポイントを用意してあげる。

エニアグラムは、あなたが顧客の隣を走るための、最高のシューズとなります。相手の呼吸を読み、リズムを合わせることができた時、あなたは、単なる売り手から、顧客が最も信頼する「伴走者」へと姿を変えているはずです。