なぜ、世界中の会議は「ムダ」であり続けるのか?
「またこの時間か…」と、カレンダーに現れる会議の通知にうんざりした経験は、ビジネスパーソンなら誰にでもあるでしょう。「発言者がいつも同じ」「議論がすぐ脱線して、気づけば雑談になっている」「結局、何も決まらなかった」。これらの問題は、一体なぜ繰り返されるのでしょうか。
多くの人は、その原因を「アジェンダが不明確」「ルールが徹底されていない」といった”仕組み”のせいにします。しかし、本当の原因はもっと根深いところにあります。それは、会議室に集った一人ひとりの**「心理的なクセ」**です。
もし、あなたが参加者の「心の動き」を手に取るように理解できたらどうでしょう?誰がなぜ黙り込み、誰がなぜ話を脱線させ、誰がなぜ場を支配しようとするのか。そのメカニズムがわかれば、会議は劇的に変わります。
本記事では、人間の心理を9つのパターンで可視化する「エニアグラム」を、最強の「会議診断・処方箋ツール」として活用。明日からあなたの会議を「共創の場」に変える、具体的なファシリテーション術を伝授します。
あなたの会議にも必ずいる!9タイプの会議参加者
まずは、あなたの周りにいる参加者を思い浮かべてみてください。エニアグラムの9タイプは、会議において以下のようなキャラクターとして現れます。
- タイプ1(完璧な進行役): 「そもそも、この会議の目的は?」と本質を問い、常に正しくあろうとする。
- タイプ2(気配りのサポーター): 「〇〇さんの言いたいこと、わかります」と頷き、発言に詰まった人を助けようとする。
- タイプ3(成果至上主義者): 「で、結論は?」「アクションプランは?」と常にゴールを見据え、効率を重視する。
- タイプ4(孤高のアーティスト): 「私は、なんだか腑に落ちない」と、全体の空気とは異なる独自の感覚や感情を表明する。
- タイプ5(沈黙の観察者): 発言は少ないが、全てを冷静に観察・分析している。情報が不十分だと口を開かない。
- タイプ6(石橋を叩く慎重派): 「もし~だったらどうするんですか?」とあらゆるリスクを想定し、安全な道を探す。
- タイプ7(アイデアの泉): 「それもいいけど、こんなのはどう?」と次々に新しい可能性を提示し、場を活性化させる(時に脱線させる)。
- タイプ8(決断のリーダー): 「俺はこう思う。やるかやらないか、ハッキリしよう」と白黒つけたがり、議論をリードする。
- タイプ9(平和の調停役): どんな意見にも「なるほど~」と頷き、場の調和を何よりも大切にする。
【会議の課題別】その問題、どのタイプが引き起こしている?
会議が機能不全に陥る原因は、これらのタイプの「心理的なクセ」が暴走している時です。
- 課題①「誰も発言しない沈黙地獄」
- 原因:対立を極端に恐れるタイプ9。「間違ったことを言いたくない」と考えるタイプ6。「自分の考えが完全にまとまるまで話したくない」タイプ5。これらのタイプの心理的安全性が確保されていない証拠です。
- 課題②「すぐ脱線する雑談天国」
- 原因:本題より面白いアイデアに飛びついてしまうタイプ7。「この前の件で…」と人の話に感情移入し、個人的な話になりがちなタイプ4。人間関係を円滑にしようと気を配りすぎるタイプ2。これらのエネルギーを制御できていない状態です。
- 課題③「一部の声が大きい人による独裁状態」
- 原因:自分の意見で場を支配したいタイプ8。自分の正しさを証明したいタイプ1。自分が有能だと示したいタイプ3。これらのタイプの自己主張が、他のタイプの意見を封じ込めてしまっています。
明日から使える!9タイプを活かす魔法のファシリテーション術
では、どうすればこれらの課題を解決できるのでしょうか。答えは、各タイプへの「魔法の言葉」と「働きかけ」にあります。
- 沈黙しがちなタイプ(5, 6, 9)を動かすには?
- 処方箋:アジェンダと資料を必ず事前に共有し、考える時間を与えます。そして、「〇〇のデータについて、分析が得意なタイプ5さんの見解を聞かせてください」「リスク管理の観点から、タイプ6さんが懸念する点はありますか?」と名指しで、具体的な役割を与えて質問します。タイプ9には「全体の意見が出ましたが、皆が納得するために、〇〇さんの視点も聞かせてもらえますか?」と問いかけ、安心感を与えます。
- 脱線しがちなタイプ(2, 4, 7)を導くには?
- 処方箋:「面白いアイデアですね!ありがとうございます。その件は重要なので、一度**『駐車場(パーキングロット)』**にメモしておいて、必ず後で話しましょう。今は〇〇の件に戻ってもいいですか?」と、一度しっかり受け止め、貢献を認めた上で、本筋に引き戻します。頭ごなしに否定するのは逆効果です。
- 主張が強いタイプ(1, 3, 8)と協調するには?
- 処方箋:「〇〇さん、力強いご意見ありがとうございます。非常に参考になります」と、まずリーダーシップや貢献を承認します。その上で、「では、この意見を別の角度から見るとどうでしょうか?他の皆さんはいかがですか?」と、他の参加者に明確に話を振ることで、議論のバランスを取ります。
まとめ:会議は「作業」から「共創」の場へ
会議の生産性は、ファシリテーターのスキル以前に、参加者一人ひとりの「心理的多様性」をどれだけ理解し、活かせるかにかかっています。エニアグラムは、そのための最高の地図であり、羅針盤です。
各タイプが持つ本来の強みを引き出し、心理的安全性を確保することで、誰もが安心して発言し、貢献できる場が生まれます。そうなった時、あなたの会社の会議は、ただの「つまらない義務」から、イノベーションとチームの結束を生み出す「価値ある共創の時間」へと生まれ変わるでしょう。
まずは、次回の会議で、参加者がどのタイプに見えるか、こっそり観察することから始めてみませんか?