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激動の時代を乗り切る「健全な組織」の作り方とは?エニアグラムで学ぶ、危機におけるリーダーシップとコンプライアンスの本質

あなたの組織は、明日のニュースと無関係でいられるか?

国際情勢の緊迫化を伝えるニュース、後を絶たない大企業の不祥事。私たちは今、未来を予測することが極めて困難な時代を生きています。このような環境下で、自社の存続と成長を考えるとき、多くのリーダーは事業戦略や財務基盤に目を向けるでしょう。しかし、それだけで十分でしょうか?

ある日突然、あなたの組織が「危機」の当事者になったとしたら。それは外部環境の激変かもしれませんし、内部から生じたコンプライアンス違反かもしれません。真に「強い組織」とは、好況期の業績だけで測られるものではなく、こうした予期せぬ危機に動じず、しなやかに乗り越えることのできる「健全性」と「回復力(レジリエンス)」を兼ね備えた組織です。

そして、その組織の健全性を根底で左右しているのが、リーダーや従業員一人ひとりの「人間の心理」に他なりません。なぜ判断を誤るのか、なぜ不正に手を染めてしまうのか。そのメカニズムを解き明かす強力なツールが、今回ご紹介する「エニアグラム」です。

鍵は「健全度のレベル」- なぜあのリーダーは道を誤ったのか?

エニアグラムは人を9つのタイプに分類する性格類型論ですが、その真髄は「健全度のレベル」という概念にあります。これは、私たちの心の状態を「健全」「通常」「不健全」の9段階のグラデーションで捉えるものです。

重要なのは、同じタイプの人でも、心の状態によって全く別人に見えるほど言動が変化するという点です。

  • 健全な状態:自分のタイプの強みを最大限に発揮し、自己を超えた視点を持ち、他者に対して寛容で思慮深い。
  • 通常の状態:タイプの基本的な欲求や恐れに動かされ、エゴが顔を出すが、社会生活を問題なく送れるレベル。
  • 不健全な状態:強いストレスやプレッシャーに晒され、タイプの最もネガティブな側面に囚われてしまう。視野が極端に狭くなり、自己中心的で破壊的な行動に走りやすい。

企業の不祥事や組織を崩壊させるような判断ミスは、多くの場合、リーダーや主要メンバーがこの「不健全なレベル」にまで落ち込んでしまったときに発生するのです。

【タイプ別】プレッシャーが暴く「不健全なリーダー」の姿

強いプレッシャーは、リーダーが持つタイプの「影」の部分を露呈させます。ここでは、各タイプが不健全な状態に陥ったときに見られる、危機的なリーダーシップのパターンを見ていきましょう。

  • タイプ1(改革する人):独善的な正義感に囚われ、自分と違う意見を全て「悪」と断罪し、組織を硬直させる。
  • タイプ2(助ける人):見返りを求め、派閥を作り、自分に従わない者を巧みに操作・排除しようとする。
  • タイプ3(達成する人):成功や体裁への執着から、データの改ざんや不正な手段に手を染めることを厭わなくなる。
  • タイプ4(個性を求める人):自分の感情の渦に周りを巻き込み、重要な局面で職場を混乱させ、職務を放棄することもある。
  • タイプ5(調べる人):現実から完全に引きこもり、情報の共有を拒絶し、組織を機能不全に陥らせる。
  • タイプ6(信頼を求める人):不安からより強い権威に盲従し、たとえ不正であっても「上の指示だから」と加担してしまう。
  • タイプ7(熱中する人):現実の深刻な問題から逃避し、無責任な楽観論や衝動的な行動で被害を拡大させる。
  • タイプ8(挑戦する人):猜疑心から他者を過度に攻撃し、強引な意思決定で反対意見を封殺し、組織を破壊する。
  • タイプ9(平和を求める人):問題と向き合うことを放棄し、「見て見ぬふり」をすることで、不正や対立が深刻化するのを放置する。

【タイプ別】危機を乗り越え、信頼を築く「健全なリーダーシップ」

危機は、リーダーが自身のタイプの本質的な強みを発揮する機会でもあります。健全な状態を保ち、危機を乗り越えるための処方箋をタイプ別に見ていきましょう。

  • タイプ1(改革する人):**「公正さ」**を貫き、倫理的な判断軸を示すことで、組織のコンプライアンス意識を根付かせる。
  • タイプ2(助ける人):**「共感力」**で、混乱するメンバーの心に寄り添い、チームの心理的安全性を確保する。
  • タイプ3(達成する人):**「適応力」「鼓舞する力」**で、困難な状況でもチームを前向きにし、現実的な目標達成へと導く。
  • タイプ4(個性を求める人):**「創造性」「人間への深い洞察」**で、誰もが思いつかないような危機打開策を見出す。
  • タイプ5(調べる人):**「冷静な分析力」**で、錯綜する情報を整理し、客観的な事実に基づいた的確な戦略を立てる。
  • タイプ6(信頼を求める人):**「責任感」「危機察知能力」**で、潜在的なリスクを洗い出し、最悪の事態に備える粘り強い組織を作る。
  • タイプ7(熱中する人):**「楽観性」「機敏さ」**で、絶望的な状況下でも希望を見出し、素早い方向転換で活路を開く。
  • タイプ8(挑戦する人):**「決断力」「保護する力」**で、断固たるリーダーシップを発揮し、組織とメンバーを断固として守り抜く。
  • タイプ9(平和を求める人):**「受容力」「調停力」**で、対立する意見に耳を傾け、組織が一つにまとまるための合意形成を促す。

まとめ:エニアグラムで築く、レジリエントな組織文化

今回見てきたように、危機的状況は、リーダーや組織の「健全度」を測るリトマス試験紙と言えます。そして、コンプライアンス違反や判断ミスといった問題も、突き詰めれば人間の心理、すなわち健全度の低下によって引き起こされるのです。

エニアグラムを通じて、リーダーがまず自分自身の心の動きや不健全に陥るパターンを自覚すること。そして、多様なタイプのメンバー一人ひとりが持つ強みと、ストレス下で見せるサインを理解し、チーム全体の健全度を高めていくこと。この人間理解に基づいたアプローチこそが、小手先のルール作りや研修だけでは成し得ない、真にレジリエント(しなやかで回復力のある)な組織文化を育むための土台となります。

先の見えない時代だからこそ、自社を動かす「人間」という最も重要な資産に目を向け、そのポテンシャルを最大限に引き出す知恵が、今、求められているのではないでしょうか。