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契約の「温度感」を正確に測る。エニアグラムで仕掛ける、9タイプ別テストクロージングの技術

「いける」と思ったのに…なぜ、最後の最後で断られるのか?

「感触は良かったはずなのに、クロージングをかけたとたんに、相手の顔が曇ってしまった」 「完璧な提案だったのに、『持ち帰って検討します』の一点張りで、結局立ち消えになった」

営業担当者であれば、誰もがこのような「最後の壁」にぶつかった経験があるでしょう。その原因は、あなたの提案内容が悪いからでも、最終クロージングの言葉が弱いからでもありません。

その原因は、相手の「契約への温度感」を、正確に測らないまま、最終クロージングという“手術”に踏み切ってしまったからです。

テストクロージングとは、最終クロージングの前に、相手の購入意欲や、まだ表に出ていない不安・懸念を、探るための「打診」です。いわば、顧客の「心の温度」を測るための温度計。

この記事は、エニアグラム心理学を用いて、その温度計の精度を極限まで高め、各タイプ別に最も効果的な「診断的質問」を投げかけることで、あなたの商談成功率を飛躍的に高めるための、プロフェッショナル向け技術マニュアルです。

第1章:テストクロージングの目的 – 「占い」から「精密診断」へ

多くの営業担当者が行うテストクロージングは、「いかがでしょうか?」「前向きにご検討いただけそうですか?」といった、漠然とした質問に留まります。これは、いわば「占い」です。相手の気分次第で、どうとでも取れる答えしか返ってきません。

しかし、エニアグラムを活用したテストクロージングは、「精密診断」です。それは、相手のタイプの根源的な欲求や恐れに、意図的に触れる質問を投げかけることで、その反応から「隠された本音」を引き出すことを目的とします。

  • もし、相手が前のめりに肯定すれば、それは「購入準備完了」のサイン。あなたは安心して最終クロージングに進めます。
  • もし、相手が少しでもためらったり、反論したりすれば、それこそが、あなたが最終クロージングの前に解決すべき、最後の「懸念事項」なのです。

第2章:9つの「診断的質問」- タイプ別テストクロージング

ここからは、9つのタイプ別に、彼らの心の温度を正確に測るための「診断的質問」と、その反応から読み取るべき「サイン」を具体的に解説します。

  • vs. タイプ1(完璧主義者)
    • 診断的質問: 「ここまでご説明した中で、〇〇様が『理想』とされる基準と、まだギャップがあると感じられる点は、正直なところございますか?」
    • 購入サイン:「いや、これなら我々の基準をクリアしているね」
    • 懸念サイン:「うーん、細かい点だが、この部分の〇〇が少し気になる…」→ 最後の懸念は「品質・正当性」
  • vs. タイプ2(献身家)
    • 診断的質問: 「このサービスを導入されることで、チームの皆さんには、どのように喜んでいただけそうでしょうか?そのイメージは湧きますか?」
    • 購入サイン:「ええ、きっと皆、仕事が楽になって喜んでくれると思います!」
    • 懸念サイン:「私がこれを進めて、本当に皆のためになるだろうか…」→ 最後の懸念は「人間関係への影響」
  • vs. タイプ3(達成者)
    • 診断的質問: 「これを導入された後の、〇〇様の『成功イメージ』は、現時点でどのくらい具体的になっていらっしゃいますか?」
    • 購入サイン:「ああ、これを使えば、間違いなく競合に勝てるね」と、未来の成功を語る。
    • 懸念サイン:「まだ、これが本当に成果に繋がるのか、確信が持てない」→ 最後の懸念は「成果への確信」
  • vs. タイプ4(芸術家)
    • 診断的質問: 「このご提案は、巷にある“ありきたりな解決策”とは一線を画す、〇〇様の独自のビジョンに合致していると感じていただけますか?」
    • 購入サイン:「ええ、他とは違う、という点は評価している」
    • 懸念サイン:「うーん、もう少し、何か『特別な』ものが欲しい…」→ 最後の懸念は「独自性・非凡さ」
  • vs. タイプ5(研究者)
    • 診断的質問: 「ご判断いただくにあたって、私がご提示した情報以外に、あと何があれば、〇〇様は完全に『納得』できますか?」
    • 購入サイン:「いや、判断材料は十分揃っている」
    • 懸念サイン:「〇〇に関する、より詳細なデータが欲しい」→ 最後の懸念は「情報不足」
  • vs. タイプ6(忠実な人)
    • 診断的質問: 「仮に導入いただいたとして、〇〇様が今、最も『懸念されるリスク』は、どのようなことでしょうか?」
    • 購入サイン:「いや、あなたを信じるよ」あるいは具体的なリスクを挙げつつも、解決策に納得している。
    • **懸念サイン:**次から次へと、まだ解決していないリスクを挙げてくる。→ 最後の懸念は「将来のリスク」
  • vs. タイプ7(熱中する人)
    • 診断的質問: 「このプランで進めることで、〇〇様にとって『面白そうな未来』が待っていると感じていただけますか?」
    • 購入サイン:「うん、ワクワクするね!早く始めたいよ!」
    • 懸念サイン:「これを決めると、他のことができなくなるのが、ちょっとね…」→ 最後の懸念は「選択の自由の喪失」
  • vs. タイプ8(挑戦する人)
    • 診断的質問: 「色々とご提案させていただきましたが、最終的に、この件を『どう動かすか』は、全て〇〇様のご判断です。現時点でのご決断はいかがでしょうか?」
    • 購入サイン:「よし、わかった。やろう」と、自分の決断であることを明確にする。
    • 懸念サイン:「まだ、こちらが主導権を握れていない」という不満を見せる。→ 最後の懸念は「コントロール権」
  • vs. タイプ9(平和を求める人)
    • 診断的質問: 「この件をこのまま進めることが、関係者の皆様にとって、最も『穏便で、波風の立たない』方法だと感じていただけますか?」
    • 購入サイン:「ええ、それが一番スムーズだと思います」
    • 懸念サイン:「これを決めることで、〇〇さん(他の誰か)が、何か言ってくるんじゃないか…」→ 最後の懸念は「将来の対立」

第3章:「温度感」の読み解き方と、次の一手

診断的質問に対する相手の反応こそが、あなたが次に取るべき行動を教えてくれます。

  • 「購入サイン」が出た場合: おめでとうございます。あなたは、相手の心の温度が「契約」という沸点に達していることを確認できました。ここでためらう必要はありません。「ありがとうございます。では、具体的なお手続きについてご説明してもよろしいでしょうか?」と、自信をもって最終クロージングに進みましょう。
  • 「懸念サイン」が出た場合: これもまた、素晴らしい成果です。あなたは、手術の前に、相手の体内に残る「最後の病巣」を発見できたのです。ここで最終クロージングをかけてはいけません。「〇〇様、そのご懸念について、お聞かせいただきありがとうございます。それが解消されない限り、進めるべきではありません。まず、その点を完璧にクリアにさせてください」と伝え、発見された懸念事項の解決に、全力を注ぎましょう。

結論:憶測をやめ、診断を始めよう

テストクロージングとは、当てずっぽうの「賭け」ではありません。それは、顧客の心理を深く理解し、敬意を払った上で行う、科学的な「診断」です。

エニアグラムは、その診断精度を飛躍的に高める、最高の聴診器となります。

顧客の心の温度を正確に測り、最後の不安を、あなたの手で丁寧に取り除いてあげてください。そうすれば、「YES」という答えは、あなたが引き出すものではなく、顧客が自ら、喜んで差し出してくれるものになるはずです。