「なぜ、あの人はそう判断するのか?」その答えは、価値観にある
「なぜ、この渾身の企画は、あの役員に響かないのだろう?」 「なぜ、うちの部下は、こちらの指示通りに動いてくれないのだろう?」 「なぜ、この商品は、ターゲット顧客に全く売れないのだろう?」
ビジネスの現場は、こうした無数の「なぜ?」に満ちています。私たちはその答えを、相手の性格や能力、あるいはロジックの不備に見出そうとします。しかし、多くの場合、本当の答えはもっと深い場所にあります。
それは、その人の意思決定を根底で支配している、目に見えない**「価値観」**という名のOS(オペレーティング・システム)です。人が何かを「良い」と判断し、「行動」を起こすとき、必ずこのOSを通過します。
もし、このOSを解読できたらどうでしょう? エニアグラムは、人間が持つ9つの根源的な「価値観コード」を驚くほど正確に解き明かす、最高のツールです。この記事は、そのコードを読み解き、あなたのビジネスを次のステージへと導くための、ハッキングマニュアルです。
【一覧】これが9つの価値観コードだ!各タイプの最優先事項
まず、9つのタイプが、人生のあらゆる場面で何を最も重要な「価値観」として判断基準にしているのか、そのキーワードを明確に定義します。これが全ての基本となります。
- タイプ1:正しさ(公正、完璧、誠実、改善)
- タイプ2:愛情(繋がり、貢献、思いやり、親密さ)
- タイプ3:成功(価値、効率、賞賛、達成)
- タイプ4:本物(独自性、美、真実の感情、意味)
- タイプ5:知識(理解、分析、有能さ、真理)
- タイプ6:安全(信頼、確実性、忠誠、安心)
- タイプ7:自由(楽しさ、可能性、刺激、楽観)
- タイプ8:力(支配、正義、自己決定、強さ)
- タイプ9:平和(調和、安定、受容、平穏)
この「価値観の違い」こそが、人々の行動の違いを生み出す源泉なのです。
【実践編1】マーケティングとセールスにおける価値観ハック
顧客の「価値観コード」に直接響くメッセージを設計することで、あなたのマーケティングやセールスの成約率は劇的に向上します。
- vs. タイプ1「正しさ」を持つ顧客
- 響く言葉:「業界最高水準の品質」「第三者機関認定」「10年間の品質保証」
- 戦略: その選択がいかに「正しく、間違いのない」ものであるかを、客観的なデータと権威付けで証明します。手抜き感のある広告や、誇張表現は絶対に見抜かれます。
- vs. タイプ3「成功」を持つ顧客
- 響く言葉:「成功者が選ぶ、ワンランク上の選択」「これを手にすれば、あなたの価値はさらに高まる」
- 戦略: 商品やサービスそのものの機能より、それがもたらす「ステータス」や「理想の自分」という未来を提示します。有名人や成功者の導入事例は極めて有効です。
- vs. タイプ6「安全」を持つ顧客
- 響く言葉:「安心の全額返金保証」「導入実績No.1」「いつでも万全のサポート体制」
- 戦略: とにかく「この選択は安全である」という安心感を与えることに全力を注ぎます。購入しないことのリスクを提示するのも有効ですが、不安を煽りすぎない注意が必要です。
- vs. タイプ7「自由」を持つ顧客
- 響く言葉:「使い方はあなた次第!可能性は無限大」「今だけの限定体験」
- 戦略: 長期的なコミットメントや制約を感じさせず、「これを手に入れることで、あなたの選択肢や楽しい体験が増える」という未来をアピールします。
【実践編2】マネジメントとチームビルディングにおける価値観ハック
部下や上司、同僚の「価値観コード」を理解することは、彼らの**動機(モチベーション)**の源泉を理解することに他なりません。
- 部下がタイプ1「正しさ」
- マネジメント術: 曖昧な指示はNG。「この仕事の目的は〇〇で、達成基準は△△です」と明確なゴールとルールを示し、その範囲内での自律性を与えます。結果だけでなく、仕事の丁寧さや誠実さを評価します。
- 上司がタイプ3「成功」
- 付き合い方: 報告は「結論から」。プロセスよりも「結果」と「費用対効果」を重視します。彼の成功に貢献する有能な部下であることをアピールするのが得策です。
- 部下がタイプ5「知識」
- マネジメント術: 一人で深く集中できる環境を用意します。指示を出す際は、「なぜなら〇〇だから」と、その背景にある理由やロジックを丁寧に説明すると、納得して能力を発揮します。
- 上司がタイプ8「力」
- 付き合い方: 隠し事やごまかしは絶対に見抜かれます。敬意を払いつつも、自分の意見は正直かつ堂々と伝えることが信頼に繋がります。「イエスマン」は評価されません。
- 部下がタイプ9「平和」
- マネジメント術: チームの調和を保つための「調整役」をお願いすると、やりがいを感じます。意見を求める際は、圧力をかけず、「〇〇さんの意見も聞かせてもらえると、皆が安心するんだけどな」と、穏やかに促します。
結論:「価値観の違い」こそが、最強の武器になる
これまで見てきたように、人のあらゆる行動や判断は、その人が無意識に抱く、たった一つの根源的な「価値観」を満たすために行われています。
相手を動かし、リードし、あるいは心から理解するための秘訣は、自分の価値観を押し付けることではありません。相手の価値観を尊重し、その土俵の上でコミュニケーションをとることです。
そして、この戦略を使いこなすための全ての始まりは、あなた自身の価値観コードは何か、と深く見つめ直す自己分析からスタートします。あなたは何を「正しい」と信じ、何を「美しい」と感じ、何を「成功」と定義するのでしょうか? その答えを知ることが、ビジネスで、そして人生で結果を出すための、最も確実な第一歩なのです。