チーム内のコミュニケーションは、組織の生産性や士気に直結する重要な要素です。しかし、意図したメッセージが相手に正しく伝わらなかったり、誤解が生じたりすることは少なくありません。エニアグラムは、なぜそのようなコミュニケーションギャップが生じるのかを理解し、各タイプに合わせた効果的なコミュニケーション方法、特に建設的なフィードバックの伝え方を学ぶための強力なツールとなります。
目次
- 1 4.1. コミュニケーションギャップ:なぜメッセージは誤解されるのか
- 2 4.2. エニアグラムを意識したコミュニケーションの基本原則
- 3 4.3. タイプ1へのコミュニケーションとフィードバック:明確さ、論理性、基準の尊重
- 4 4.4. タイプ2へのコミュニケーションとフィードバック:感謝、共感、個人的な配慮
- 5 4.5. タイプ3へのコミュニケーションとフィードバック:効率性、成果志向、称賛
- 6 4.6. タイプ4へのコミュニケーションとフィードバック:共感、独自性の尊重、誠実さ
- 7 4.7. タイプ5へのコミュニケーションとフィードバック:論理性、客観性、情報の提供
- 8 4.8. タイプ6へのコミュニケーションとフィードバック:明確性、一貫性、安心感の提供
- 9 4.9. タイプ7へのコミュニケーションとフィードバック:ポジティブさ、選択肢の提示、楽しさ
- 10 4.10. タイプ8へのコミュニケーションとフィードバック:直接性、率直さ、力の尊重
- 11 4.11. タイプ9へのコミュニケーションとフィードバック:受容、忍耐、穏やかさ
- 12 4.12. エニアグラム・コミュニケーション・チートシート
4.1. コミュニケーションギャップ:なぜメッセージは誤解されるのか
コミュニケーションにおける誤解は、単に言葉の選び方の問題だけでなく、エニアグラムのタイプによって情報処理の仕方、重視するポイント、そして典型的なコミュニケーションスタイルが異なることに起因します。あるタイプにとっては明確で論理的な説明が心地よくても、別のタイプにとっては冷たく感じられたり、感情的な配慮が足りないと感じられたりすることがあります。
重要なのは、コミュニケーションが「何を言うか」だけでなく、「どのように言うか」、そして「言外に何を伝えるか(メタメッセージ)」によって大きく左右されるという点です 。エニアグラムは、これらのメタメッセージを読み解く手助けとなります。例えば、感情センター(タイプ2、3、4)の人々は、言葉のトーンや表情、話の背景にある感情的なニュアンスに非常に敏感である可能性があります。一方で、思考センター(タイプ5、6、7)の人々は、メッセージの論理性や一貫性により注目するかもしれません 。したがって、マネージャーは、自分が発する明示的なメッセージだけでなく、それがどのような非言語的なシグナルを伴い、各タイプにどのように解釈され得るのかを意識する必要があります。
4.2. エニアグラムを意識したコミュニケーションの基本原則
タイプ別の戦略に入る前に、エニアグラムを意識したコミュニケーション全般に共通する基本原則をいくつか押さえておきましょう。
- 能動的な傾聴:相手の言葉だけでなく、その背後にある感情や意図を理解しようと努めることが重要です。
- 共感:相手のタイプを理解し、その視点や価値観を尊重する姿勢が、信頼関係の基盤となります。
- 決めつけない:エニアグラムは理解のためのツールであり、相手を型にはめるためのラベルではありません。「この人はタイプ〇だからこうに違いない」と決めつけるのではなく、エニアグラムをきっかけとして、より深く対話する機会を作ることが大切です 。真のスキルは、タイプに関する知識を仮説として持ち、実際の対話や観察を通じて検証し、個別化された理解を深めていくことです。
- 心理的安全性の確保:誰もが安心して自分の意見を表明でき、弱みを開示できるような、心理的に安全な環境を作ることが、オープンで建設的なコミュニケーションには不可欠です 。
4.3. タイプ1へのコミュニケーションとフィードバック:明確さ、論理性、基準の尊重
- 好むコミュニケーションスタイル:明確、論理的、構造的、具体的、公正。
- 聞いていること:正しさ、基準、改善点、責任範囲、期待される結果。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- 具体的で客観的な事実に基づいて伝える。
- 感情的にならず、冷静かつ論理的に話す。
- 改善のための具体的な提案を添える。
- 彼らの高い基準や誠実さを認めた上で、改善点を指摘する。
- 信頼関係を築くために:一貫性のある態度、約束の遵守、公正な判断、質の高い仕事への評価。
4.4. タイプ2へのコミュニケーションとフィードバック:感謝、共感、個人的な配慮
- 好むコミュニケーションスタイル:温かく、協力的、共感的、個人的な関心を示す。
- 聞いていること:感謝の言葉、自分が必要とされているか、相手の感情、関係性の良好さ。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- まず彼らの貢献や努力に感謝と承認を伝える 。
- 批判的ではなく、支援的なトーンで話す。
- 「あなたのために」という配慮の姿勢を示す。
- 彼らの感情に配慮し、1対1で個人的に伝える。
- 自己犠牲的になっている場合は、自分自身を大切にすることの重要性を優しく伝える 。
- 信頼関係を築くために:頻繁なコンタクト、感謝の表明、個人的な関心、彼らの助けを快く受け入れること 。
4.5. タイプ3へのコミュニケーションとフィードバック:効率性、成果志向、称賛
- 好むコミュニケーションスタイル:効率的、要点を押さえた、成果志向、ポジティブ。
- 聞いていること:目標、期待される成果、評価、効率化のヒント、自分の成功に繋がるか。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- 成果や達成を具体的に称賛する。
- 改善点は、より高い成果に繋がるという視点で伝える。
- 効率性や生産性向上に関する具体的な提案を歓迎する。
- 彼らの能力やポテンシャルを信じていることを示す。
- チームへの貢献やプロセスも評価対象であることを伝える 。
- 信頼関係を築くために:彼らの成果を認め、公の場で称賛する、効率的な働き方をサポートする、キャリアアップの機会を提供する。
4.6. タイプ4へのコミュニケーションとフィードバック:共感、独自性の尊重、誠実さ
- 好むコミュニケーションスタイル:誠実、共感的、深みのある、個人的な繋がりを感じさせる。
- 聞いていること:自分の独自性が理解されているか、感情的な共感、本音、メッセージの裏にある意味。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- 彼らの感情や視点に共感し、理解しようと努める。
- 彼らのユニークな貢献や感性を認める。
- 批判は慎重に、彼らの自己価値を傷つけないように配慮する。
- 具体的で建設的な提案を、個人的かつ誠実に伝える。
- 彼らの感情の波を理解し、落ち着いている時に話す。
- 信頼関係を築くために:彼らの個性や感情を尊重する、誠実な態度で接する、表面的な会話を避ける、彼らの創造性を評価する。
4.7. タイプ5へのコミュニケーションとフィードバック:論理性、客観性、情報の提供
- 好むコミュニケーションスタイル:論理的、客観的、簡潔、情報に基づいた、感情的でない。
- 聞いていること:事実、データ、論理的な根拠、詳細な情報、自分の専門性が活かせるか。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- 客観的なデータや事実に基づいて、論理的に伝える。
- 感情的な表現や曖昧な言葉を避ける。
- 十分な情報を提供し、彼らが自分で考える時間を与える。
- 彼らの専門性や分析力を尊重する。
- 改善点は、より効率的または効果的な方法として提案する。
- 信頼関係を築くために:彼らの知識や専門性を尊重する、プライバシーを尊重し干渉しすぎない、論理的な議論に応じる、静かな環境を提供する。
4.8. タイプ6へのコミュニケーションとフィードバック:明確性、一貫性、安心感の提供
- 好むコミュニケーションスタイル:明確、一貫性のある、誠実、支援的、予測可能。
- 聞いていること:期待されること、潜在的なリスク、安全策、サポート体制、リーダーの真意。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- 具体的で明確な言葉で、一貫性を持って伝える。
- 彼らの懸念や不安に耳を傾け、安心感を与える。
- サポートする意思があることを明確に示す。
- 批判ではなく、成長のための支援として位置づける。
- ポジティブな側面も伝え、自信を持たせる。
- 信頼関係を築くために:約束を守る、一貫した態度を示す、誠実に対応する、サポートを惜しまない、彼らの忠誠心を評価する。
4.9. タイプ7へのコミュニケーションとフィードバック:ポジティブさ、選択肢の提示、楽しさ
- 好むコミュニケーションスタイル:ポジティブ、楽観的、刺激的、アイデアを歓迎する、自由闊達。
- 聞いていること:新しい可能性、楽しい要素、選択肢、ポジティブな側面、自分のアイデアが受け入れられるか。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- ポジティブな雰囲気で、彼らのエネルギーを損なわないように伝える。
- 改善点を、新しい可能性やより楽しい結果に繋がるものとして提示する。
- 複数の選択肢を与え、彼ら自身に選ばせる余地を残す。
- ユーモアを交え、深刻になりすぎないようにする。
- 彼らの多才さやアイデアを認めつつ、最後までやり遂げることの重要性を伝える。
- 信頼関係を築くために:彼らの楽観性やアイデアを奨励する、新しい経験や学びの機会を提供する、束縛せず自由を尊重する、楽しさを共有する。
4.10. タイプ8へのコミュニケーションとフィードバック:直接性、率直さ、力の尊重
- 好むコミュニケーションスタイル:直接的、率直、力強い、結論から話す、無駄がない。
- 聞いていること:本音、力の所在、コントロールできる範囲、自分の主張が通るか、相手の強さ。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- 単刀直入に、率直かつ具体的に伝える 。
- 彼らの強さや影響力を認めた上で、行動の改善点を指摘する。
- 感情的にならず、毅然とした態度で臨む。
- 彼らの意見や反論にも耳を傾けるが、最終的な決定権は明確にする。
- 他者への影響力を考慮するよう促す。
- 信頼関係を築くために:彼らの強さを認め、敬意を払う、裏表のない態度で接する、挑戦的な課題を与える、彼らの正義感を支持する。
4.11. タイプ9へのコミュニケーションとフィードバック:受容、忍耐、穏やかさ
- 好むコミュニケーションスタイル:穏やか、受容的、忍耐強い、プレッシャーを与えない、協調的。
- 聞いていること:全体の調和、自分の意見が受け入れられるか、安心感、対立の回避。
- 建設的なフィードバックの伝え方:
- 穏やかで受容的な態度で、安心感を与えながら伝える。
- 彼らの貢献や協調性を認める。
- 批判的ではなく、支援的な言葉を選ぶ。
- 彼らが自分の意見を表明しやすいように、時間をかけて丁寧に聞く。
- 具体的な行動に焦点を当て、人格を否定しない。
- 信頼関係を築くために:彼らのペースを尊重する、平和で調和のとれた環境を作る、意見を辛抱強く聞く、彼らの存在価値を認める。
効果的なフィードバックは、多くの場合、単に行動を指摘するだけでなく、その行動の根底にあるポジティブな意図を認めたり、フィードバックを本人の核となる価値観や動機に結びつけたりすることで、より受け入れられやすくなります。例えば、タイプ1に対しては、フィードバックを「より高い基準を達成するための一助」として提示できます。タイプ4に対しては、「チームへの協力が、あなたのユニークな貢献をさらに際立たせる」といった形で伝えることができるでしょう 。マネージャーは、フィードバックを各タイプの「価値観の言語」に翻訳するスキルを磨く必要があります。
4.12. エニアグラム・コミュニケーション・チートシート
タイプ | 最も効果的なコミュニケーション | 避けるべきコミュニケーション | フィードバックのヒント | 信頼を築くために |
---|---|---|---|---|
1:改革する人 | 明確、論理的、公正、基準を示す | 曖昧、感情的、不公平、基準の欠如 | 具体的事実に基づき、改善点を提案。誠実さを認める。 | 一貫性、約束遵守、公正な判断。 |
2:助ける人 | 温かく、共感的、感謝を伝える、個人的関心を示す | 冷淡、批判的、無視、利用する | まず貢献に感謝。支援的に、個人的に伝える。 | 頻繁なコンタクト、感謝の表明、個人的関心。 |
3:達成する人 | 効率的、成果志向、称賛、ポジティブ | 非効率、目標曖昧、評価されない、ネガティブ | 成果を称賛し、より高い成果への道として改善点を提示。 | 成果を認め公に称賛、効率化支援。 |
4:個性を求める人 | 誠実、共感的、独自性を尊重、深みのある | 表面性、画一性、感情の無視、批判的 | 感情と視点に共感し、独自性を認める。誠実に伝える。 | 個性と感情を尊重、誠実な態度。 |
5:調べる人 | 論理的、客観的、情報提供、簡潔 | 感情的、非論理、情報不足、干渉 | 事実とデータに基づき、考える時間を与える。専門性を尊重。 | 知識と専門性を尊重、プライバシー配慮。 |
6:忠実な人 | 明確、一貫性、支援的、安心感を与える | 曖昧、不安定、裏切り、サポート不足 | 具体的に、一貫性を持って。懸念を聞き安心感を与える。 | 約束を守る、一貫した態度、誠実な対応。 |
7:熱中する人 | ポジティブ、刺激的、選択肢提示、アイデア歓迎 | ネガティブ、束縛、単調、アイデア否定 | ポジティブに、新しい可能性として改善点を提示。選択肢を与える。 | 楽観性とアイデアを奨励、自由を尊重。 |
8:挑戦する人 | 直接的、率直、力強い、結論から | 間接的、曖昧、弱腰、コントロールしようとする | 単刀直入に、具体的に。強さを認め、行動の改善を指摘。 | 強さを認め敬意を払う、裏表のない態度。 |
9:平和をもたらす人 | 穏やか、受容的、忍耐強い、プレッシャーを与えない | 対立的、高圧的、無視、性急 | 穏やかに、受容的に。貢献を認め、意見を丁寧に聞く。 | ペースを尊重、調和的環境、意見を辛抱強く聞く。 |
このチートシートは、マネージャーが日々のコミュニケーションにおいて、その場で適切な対応を取るための一助となるでしょう。